クッポグラフィーのデザイナーが創り出す “人と人とをつなげる”デザインの世界

「あくまでも写真に写る人が主役。その人が引き立つようなデザインを考えています」

そう語るのは、クッポグラフィーでグラフィックデザイナーとして働く、青柳由衣。

これまで、商品のパッケージやパンフレットなど形に残るもののデザインから、カフェのブランディングやイベントの企画まで。多岐に渡りデザインの力で、お客さまに心の支えとなる写真を届ける機会を生み出してきました。

かつては自分の作品に自信が持てなかったと話す青柳。デザインには人と人とをつなぐ力があることに気づいた、思い出深いエピソードを交えながら、仕事の魅力をお届けします。

青柳 由衣(あおやぎ ゆい)

グラフィックデザイナー。漫画家の父とデザイナーの母の影響で、美術の道へ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、エイベックス・エンタテインメント入社。アーティストに関連する様々な媒体のデザインを担当する中、自分らしいデザインとは何なのか自問自答。その後チェコに留学し、木彫り作家のもとで作品と向き合う日々を過ごす。帰国後、美術大学の講師を勤めながら、2016年 クッポグラフィー入社。グラフィックデザイナーとして働く。2025年より正社員に。一児の母として子育ても楽しんでいる。

写真の“名脇役”になれるように リアルな感覚をデザインに落とし込む

ーー青柳さんは美大を卒業後、ずっとデザインの世界でやってこられたんですね。これまでは、どのような仕事に携わってきたのでしょうか?

青柳:新卒で、エンターテイメント事業を手掛ける大手企業に入社して。私は所属アーティストのCDジャケットやグッズなど、立体的なもののデザインを中心に行っていました。「多くの人に喜んでもらいたい」という気持ちを大切にしながらも、幅広い層に受け入れてもらえるように、常にマーケティングの数字を意識してデザインを考えていました。

ーーその経験を経て、クッポグラフィーに入ってからは、どのようなデザインの仕事と向き合ってきたのでしょうか?

青柳:エンターテイメント会社とは届けたいものも、届け方も異なりました。

フォトスタジオのデザイナーの仕事は、写真と密接です。撮影はできませんが、クッポグラフィーの写真について深く理解できていると思っています。デザインする上でも写真の魅力をわかっていないとできないので。

主役は撮影にいらっしゃったお客さまで、届けたいものはお客さまが写る写真です。そのため、デザインは、お客さまのありのままの魅力が引き立つようなものを考えています。いわば、“名脇役”になれるようなデザインですね。

ー一番大切にしたいのはデザインそのものではなく、写真に写る人なんですね。

青柳:そうですね。デザインを考えるときは、一人ひとりのお客さまのことを思い浮かべながら考えることがほとんどで。先日来てくださったお客さまはこんなことに喜んでいたなとか、スタッフから聞いたお客さまのエピソードをもとにアイディアを考えたり。

エンターテイメント会社では、市場に大量に出回るもののデザインを担当し、どこかデザインだけが一人歩きしているような気持ちになったこともありました。

今は、一人ひとりが喜ぶ顔を思い浮かべながらデザインを考えられるので、リアルな感覚がそこにあって。現場で働く仲間を通じて、お客さまの反響も受け取ることができています。一つ一つ創り上げたものが、お客さまの日常に彩りを添えられたのかもしれないと思えることで、経験を自信に変えながら働くことができています。

青柳がデザインを考えたフライヤーやフォトアイテムなど。

七五三撮影の際にお渡ししている千歳飴の袋。お子さまの表情や姿が映えるように、袋はシンプルなデザインに。創作過程では、息子さんの反応も頼りにしているそう。

チェコ留学 “与えられない環境”で気づいた「つくる楽しさ」

ーーエンターテイメント会社を退職してすぐの頃、チェコに留学したそうですね。

青柳:仕事は楽しかったのですが、自分がつくっているものに自信が持てず、ずっと心の奥がモヤモヤしていて。新卒で入って経験も浅く、次々と与えられるものに対してデザインをしているような。“やらされている感”を持ちながら仕事をしていたように思います。

この気持ちをどうにかしたいと、仕事を辞めてチェコに渡ることを決断しました。

ーー大きな決断ですね。

青柳:はい、勢いもあったと思います。

チェコはナチス・ドイツに占領されていた歴史もあって、社会を皮肉ったような作品も多く、ダークな一面にも魅かれていて。大学時代から、チェコのアート作品や映画が好きだったので、いつかチェコに行ってみたいと思っていました。

気になる木彫り作家の方がいたので、弟子入りさせてもらえるようメールでお願いしたんです。

ーーすごい行動力。チェコでの経験はいかがでしたか?

青柳:作家さんから何か指示をされるわけでもなく、ひたすら自分のつくりたいものと向き合う時間が続きました。言葉が通じなかったり、困ったときに助けてくれる友人や親もいない中で、今まで“当たり前”だと思っていたものはそうじゃなかったんだと気づいて。

例えば停電があったとき、私が住んでいた家だけいつまでも真っ暗で。でも言葉が通じないので誰にも聞けなくて、暗闇の中でじっとするしかなかったような出来事も。

ーーそれは怖かったですね。

青柳:怖かったです…。日本では考えられないような経験も多くて、当たり前だと思っていたもの全てに感謝をするようになりました。その影響もあって、これまで与えられているように感じていた仕事も、信頼して託してくれていたという発想に変わっていきました。

家と工房を行き来した石畳。自分の作品とひたすら向き合った毎日。思い切りつくることってこんなにも幸せなんだなと気づかされました。あの満たされた時間は、今の私の創作活動の土台となっています。


心の支えになる写真を届けるために 部署の垣根を越えてチームに貢献したい

ーークッポグラフィーに入社したのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?

青柳:自分自身の結婚式撮影のために、いろんなフォトグラファーの写真を見ていた時期があって。そのときに、クッポグラフィーの写真と巡り合いました。インスタを見ていたとき、他の写真とは全く違っていたんです。

ーーどんな風に感じたのですか?

青柳:言葉で表すのは難しいのですが、すごくリアルだなと。写っている方の表情や光景が、今そこで起きているような。自然体でありのままが写し出されていると感じました。気になってフォローしていたら、デザイナーの募集を発見して。面白そうな会社だなと思って、すぐに応募しました。

ーー9年前というと、仕事内容や働き方も、今とは全く異なりそうですね。

青柳:当時はスタッフの人数も少なかったですし、すべてが手探りでした。今はグラフィックデザインを中心に任されていますが、あの頃は、デザインと言えるもの全てに関わっていました。

ーーもうすぐ勤続10年になりますね。どんなところに魅力を感じて続けていますか?

青柳:やっぱり、クッポグラフィーが目指す「すべての人が心の支えになる写真を持っている世の中をつくる」というミッションと、「日本で一番お客様と繋がり続けるフォトスタジオになる」というビジョンに共感しているからだと思います。クッポグラフィーで働くみんながそうだと思いますよ。

私自身、一人ひとりを思いながら作品をつくることが好きですし、クッポグラフィーも一人ひとりのストーリーを写真で届けることを大切にしています。自分が大切にしていることと会社が目指していることが一致している中で働けるのは、これ以上にない幸せだと思います。

ーー実際にお客さまの様子を見たり、お客さまの声を聞く機会はありますか?

青柳:駒沢公園スタジオで仕事をしているので、ここに来てくださるお客さまの様子は目にすることができています。私はお客さまと直接ふれあう機会はほとんどありませんが、現場のスタッフとのコミュニケーションから知ることができていて。お客さまの反応や、スタッフたちが今何を考えているのか、常にアンテナを張っています。

在宅ワークもできますが、人と人とが通い合う空気や温度感を作品に落とし込んでいきたいので、駒沢公園スタジオに出勤することが多いです。

--デザイナーは、家にこもってアイディアを練っているようなイメージでした。

青柳:9年前、手探りでクッポグラフィーをつくりあげていった名残が今も私の中にあって。入社当初は横浜港北スタジオで勤務をしていましたが、カフェで人手が足りていないときは手をとめて手伝いに行ったり、ときにはお花のラッピングをしたりも。私の場合は、スタッフと交わりながら手を動かしているほうが新しい発想が生まれるように思います。

部署の垣根や社歴にこだわらず、チームに貢献していきたいです。


デザインが人と人とを繋ぐことを実感した カフェブランディングの仕事

ーー心に残っているお仕事はありますか?

青柳:クッポグラフィーのカフェの先駆けとなった「DAILY ESCAPE COFFEE」のブランディングを担当したことは、今も心に残っています。

カフェのブランディングにはもともと憧れがあって。クッポグラフィーでカフェ事業を立ち上げる話を聞いて、すぐに社長の久保さんのもとへ行って、私もやりたいと伝えました。

撮影があってもなくてもお客さまがスタジオに気軽に訪れてくださるように。そんな思いを込めて始まった、クッポグラフィーのカフェ。「DAILY ESCAPE COFFEE」の営業は終わり、現在は駒沢公園スタジオのカフェで、撮影がないお客さまも利用することができる。

 

青柳:久保さんも含めて、カフェの運営はみんな初めてでゼロからのスタートでした。私はブランディングを担当して、久保さんのイメージを吸い上げていき、形にするにはどうすれば良いのかを考えていきました。

ーー大切にしたのはどのような部分だったのでしょうか?

青柳:地域の人たちに愛されるお店になることを目指しました。そのために、地域の方々とのコミュニケーションを重ねていきました。近隣のお店を訪ねながら、商品のデザインの中でご紹介してもいいですかと聞いて回ったことも。カフェのバリスタとお客さまとのやり取り一つにおいてもこだわりましたし、コーヒーやワッフルのパッケージから会話が広がるようなデザインを考えました。

青柳がデザインしたコーヒーのパッケージとロゴ。日常からそっと離れて、自分だけの時間を楽しむイメージでデザインしたそう。不思議でやわらかな乗り物に乗って、気づけばそっとたどり着いているような。心地よく漂う感覚を表現した。

ワッフルのラッピングペーパーには、近隣地域のお店を記した地図のデザインを施した。持ち帰って部屋に飾って下さるお客さまもいたそう。

青柳:雨の日には、コーヒーを注文してくださったお客さまに限定のクッキーをプレゼントする企画も。お客さまの喜ぶ顔が見たくて、まるでてるてる坊主のようなシルエットになるように大きめのペーパーでラッピングをしました。

バリスタたちと一緒にお客さまの声を拾いながら、少しずつお店を育ててリピーターも増えていきました。

「パッケージのデザインがかわいくて来ました」とコーヒーを飲みに来てくださったマタニティのお客さまも。その後もカフェに通ってくださり、お子さまの誕生のお祝いで撮影にも来てくださったんです。クッポグラフィーのフォトグラファーやヘアメイクとも繋がり、写真を届けることができたとき、デザインは人と人とを繋げることができるんだと感動しました。

ーー人と人とを繋げるデザイン。素敵ですね。

青柳:さらに嬉しいこともあって。DAILY ESCAPE COFFEEのお客さまだった2名が、今、クッポグラフィーのバリスタとして働いてくれているんですよ。

ーーそれはすごい。クッポグラフィーで働くきっかけもつくったのですね。

青柳:DAILY ESCAPE COFFEEのことを思い出すと、寂しさで胸の奥がぎゅっとなることもありますが、この経験や仲間と切磋琢磨した時間は今も私の心の支えになっています。そして、カフェが成功したことでそれぞれのスタジオにも展開し、カフェスペースでお客さまとの再会が生まれていることを思うと、今の仕事にも自信をもって向き合うことができます。

満開のミモザの下で、DAILY ESCAPE COFFEEのスタッフと撮った写真は、今も青柳の心の支えになっている。仕事で壁にぶつかったときは見返して元気をもらうことも。

「絶対に良いものができる」信じられる強さの秘訣

ーーゼロから生み出す仕事は、ときに苦しさも伴いそうですが、どのように乗り越えているのでしょうか?

青柳:絶対に良いものができると信じていて。実現する方法を探して何度でもチャレンジしています。例えば、ミーティングでこの案はできませんでしたと私が言ったとします。そうすると、みんながっかりしますよね。その空気に持っていきたくないので、根拠はないけれど絶対に良いものができると言いきっています。そうすると、結果的にいいものができるんですよね。

ーーそのポジティブさはどこから来るのでしょうか?

青柳:これまで芸術の世界でやってきましたが、周りの人たちの表現にいつも刺激を受けながら、自分らしさを模索してきたことが影響していると思います。フォトグラファーも同じかもしれませんね。今も仲間と切磋琢磨している感覚があります。

一方で、クッポグラフィーのスタッフは、困ったときには絶対に手を差し伸べてくれるんです。これまで何度も助けてもらって、私一人で成し遂げられたようなものはなくて。その安心感も加わって、「絶対にできる」という思いは強くなっているように感じます。

ーー仲間がいてこそできることが多いんですね。

青柳:そうなんです。2023年に開催したイベント「kuppo day」の企画もそうでした。これまで支えてくださったお客さまに感謝の気持ちを伝えるイベントだったのですが、来てくださったお子さま向けに、手づくりのカメラをつくるワークショップを行いました。

部品を組み合わせながらつくる、オリジナルカメラのワークショップ。紐や飾りのシールは好きな色を選択して好みのデザインができる。

後日、カメラを持参して撮影に訪れたお子さまも。ここで過ごした時間が楽しい思い出として残り、その先も支えになってくれれば何よりも嬉しいと青柳は話す。

青柳:カメラの素材には、家具などに使われる硬い木材を選んだのですが…。

加工業者がなかなか見つからず、知り合いの大工さんにお願いして。数も多かったので、スタッフ総出でやすりをかけたり手作業で準備を進めて、全部で1000個用意しました。

ーー1000個!素材からこだわったのですね。

青柳:ご家庭に持ち帰ってから、経年変化も楽しんでほしかったので。何十年と持つような木材を選びたかったんです。大工さんに、何でこんなに硬い木を選んだの?って突っ込まれたりもしましたが(笑)

木材のやすりかけは本当に大変で…。みんな頭から足の先まで粉まみれになりながらも、黙々と手を動かしてくれて、その姿を見ているだけで感動しました。手伝ってくれたスタッフは誰一人弱音を吐かず、大変だからやめようと言う人もいなかったんです。むしろこだわろうと言ってくれたりも。社内全体にチャレンジ精神と何でも楽しむ空気が醸成されているので、私も「絶対良いものができる」と思えるんですよね。

10年目の新しいチャレンジ 今、心から楽しいと言える仕事

ーー9年間、青柳さんは大学講師の仕事と並行してクッポグラフィーで働いてきましたが、今年から正社員になったそうですね。

青柳:どちらもやりがいがある仕事でしたが、クッポグラフィーはリブランディングを経て、今、大きく成長している転換期にあります。私自身も、もっと貢献していきたいという思いがあったので、正社員になってクッポグラフィーの仕事に集中する道を選びました。

これからの人生、どんな選択をするのかを考えた時、クッポグラフィーでやってきた9年間は、とにかく楽しくて刺激的なことばかりだったなと。

ーーとにかく楽しいと言える仕事に巡り合えるのは幸せですね。

青柳:今も、新しいことに挑戦できていて。

七五三のオリジナル着物のデザインを初めて行うことになったんです。今まで着物のデザインは経験したことがなかったのですが、ずっとやってみたいと伝え続けて希望が叶いました。

ーーそれは嬉しいですね。

青柳:社内の衣装チームが後押ししてくれて実現しました。着付けを習うところから始めて、縫い代がどのくらいあるのか、帯で隠れる部分はどの範囲に及ぶのか。細かいところまで勉強しました。衣装の担当者や縫製のスタッフと一緒に生地を見に行ったり、生地を販売している方から専門的な話を聞いたり、何もかもが楽しいです。

勤続10年目にして、新しいことにチャレンジさせてくれる環境にいられるのはありがたくて。絶対にいいものをつくるので、楽しみにしていてください。

ーー今後、チャレンジしてみたいことはありますか?

青柳:カフェがあるおかげで、撮影がなくても駒沢公園スタジオに立ち寄ってくださるお客さまがいるように、アートをテーマにした、大人からお子さままで楽しんでもらえるような場を提供できたらと妄想しています。色んな方法のアプローチで、スタジオやスタッフとお客さまを繋げるきっかけをつくりたくて。一度限りではなく何度も再会できるような、地域にも愛されるフォトスタジオを創っていきたいと思っています。

そのためには、デザイナーの仲間も増やして、デザインチームで動けるようになっていけたら。同業の仲間とともに、誰も想像しなかったアイディアを生み出して、心の支えになる時間と写真を届けていきたいです。

取材・文:石垣藍子

撮影:クッポグラフィー

関連リンク:

クッポグラフィー ウェブサイト
https://www.kuppography.com/

クッポグラフィー 採用ページ
https://www.kuppography.co.jp/recruit

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